| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W09-1 (Workshop)
個体群生態学の基礎理論 (Theories in demography) の歴史は古く、20世紀初頭に動物のDemography研究に数学を導入することに関心を寄せていたアルフレッド・ロトカの研究の貢献が大きいと考えられている。その初期研究は、アインシュタインによる特殊相対性理論やド・フリースによる突然変異説の提唱とほぼ同じ時代に始まっているほど歴史は古い。そのため、その基礎理論は、約700ページの大著、Matrix Population Models (2001)が著されるほど、この一世紀の間に目覚しい発展を遂げてきた。私見では、この発展の歴史は大きく次の三つの時期に分かれている。
1. 主に人間・動物個体群の研究に用いられた原始的齢構造モデルの時代
2. 齢構造モデルではあるが、行列の形に整理されたレズリー行列モデルの時代
3. 齢構造モデルを一般的に拡張したレフコビッチ行列モデルの時代
である。原始的構造モデルの時代は約四十年、レズリー行列の時代は約三十年続いたが、1970年以降レフコビッチ行列の登場によって、一般的な線形代数の知見を十全に応用した結果、初期の二つの時代には用いられなかった新しい個体群統計量が数多く提案され、個体群動態の解析のための様々なツールが登場した。その成果として、この五十年間に実際の自然生物集団から得られた個体群行列の蓄積量は動植物1100種にまで膨れ上がり、オープンデータベースが提供されるまでになった。本講演では、その歴史的発展の詳細を紹介し、使用できる個体群統計量について概説を加え、二番目の講演のデータベースの紹介・使用例の概説に関する「COMPADRE・COMADRE MATRIX DATABASEの概要解説」(川合 由加(北大・地球環境))につなげたい。そこでは、COMPADRE(植物データベース)・COMADRE(動物データベース)の全体構成に始まり、含まれている調査地情報や対象種情報、およびデータベースの使用法が紹介される予定である。