| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W10-4  (Workshop)

鳥取砂丘における海浜の生態系保全と観光振興のせめぎあい
Conflict between conservation and tourism promotion of coastal vegetation in Tottori Sand Dunes

*永松大(鳥取大学)
*Dai Nagamatsu(Tottori Univ.)

鳥取砂丘は日本海に面した鳥取県東部に形成された海岸砂丘で,東西約16 kmの規模を持つ。その大部分は今日までに飛砂防止のためのクロマツ植林地や耕作地,空港用地などに転用され,砂丘地としては残っていない。特に第二次大戦後に集中的に行われたクロマツ植林により鳥取砂丘も一度は全面消滅の危機に陥ったが,学術的な価値の高さから1955年に一部が天然記念物と国定公園に指定され,同時期に観光客が増加したことが保全に決定的な役割を果たした。これ以降,鳥取砂丘の保全と管理のため,様々な取り組みが行われるようになった。1970-80年代には二度にわたって周辺保安林の一部伐採が行われた。その後は在来の海浜性植物や外来植物の増加による「草原化」が顕在化したため,砂の動く鳥取砂丘を取り戻す目的で1991年から砂丘全面を対象とした除草作業が現在まで継続している。また鳥取砂丘は日本で最も有名な海岸砂丘として地域社会の期待が大きく,観光振興のためのイベントが盛んである。2017年11月には位置情報ゲームアプリの大規模イベントが開催され,砂丘への来場者数は3日間で9万人にのぼった。一般に砂丘では人の踏みつけが植物群落の種構成と分布に影響することが知られており,多数の観光客が集中することで鳥取砂丘の生態系に影響が生じることが懸念される。今回はこの点から鳥取砂丘内での足跡強度の推定と植物群落分布との関係についての解析を紹介する。その結果,観光客が集中する部分では植物群落が分布しない一方で,継続した除草活動により外来植物群落が抑制されている状況が認められた。日本の砂丘地の多くが海岸林の造成や農耕地,住宅地への改変により消滅するなかで天然記念物鳥取砂丘が保全されていることは意義深いが,鳥取砂丘の海浜植生は保全だけでなく多面的な要因のバランスの上に成り立っているといえる。


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