| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W11-2 (Workshop)
東南アジア熱帯雨林に優占するフタバガキ科は、数年に一度多樹種が同調して開花・結実し、他の年は殆ど開花しない、一斉開花と呼ばれる群集レベルの豊凶現象で知られている。一斉開花の究極要因の説明として有力なものに種子食者飽食仮説がある。これは、フタバガキの一斉開花は、長い非開花期に種子食者を飢えさせ、その個体群サイズを抑制し、不定期に大量の種子を生産することで種子食者を飽食させ、食害率を低減する繁殖戦略であると考えるものである。フタバガキ科の種子の最も大きな死亡要因はゾウムシ類や小蛾類などの昆虫による散布前の種子食害であり、実際に長い非開花期後の一斉開花は種子食昆虫の食害率が低下することが報告されている。一方、種子食昆虫がどのように非一斉開花期を生き延びるのか、またどのくらい生きられるのかという問いは、種子食者飽食仮説の根幹に関わるが、全く分かっていない。
非一斉開花期の種子食昆虫の生存方法として、非フタバガキ科の代替寄主の利用可能性を検証するため、半島マレーシアのパソ森林保護区において、フタバガキ科27種と非フタバガキ科79種から計16,137個の果実を集め、それらの種子食昆虫相を調査した。その結果、フタバガキ科から得られた種子食昆虫は非フタバガキ科の種子には全く見られず、これらの昆虫がフタバガキ科以外の有力な寄主を持つ可能性は低いと考えられた。また、非一斉開花期を休眠で乗り切る可能性を検証するため、上記調査で得られたフタバガキ科の種子食ゾウムシ類の羽化出現時期について調査を行った。その結果、果実落下後、数週間以内に成虫になるグループと半年~1年以上土壌中で休眠してから羽化出現するグループが見られた。これらの結果より、フタバガキ科の種子食昆虫は基本的にフタバガキ科種子に特異的であり、代替寄主を利用するのではなく、成虫もしくは幼虫での休眠によって非一斉開花期を生き延びていると考えられた。