| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W11-3 (Workshop)
多くの樹種は毎年コンスタントに繁殖するわけではなく、その種子生産の動態に著しい変動があることが知られており、またその変動が個体間で同調する。この変動的同調繁殖は豊凶と呼ばれ、種子食性昆虫、特に捕食寄生者を効率的に回避する戦略として進化してきたとする仮説が有力視されていた(捕食者飽食仮説)。一方、種子食性昆虫も樹木が作り出す変動環境に対する対抗として休眠延長戦略を採るものがある。幼虫は種子の内容物を消費した後に土壌中で休眠するのであるが、翌年にすべて羽化するわけではなく、休眠期間をさらに翌年、翌々年にまで伸ばすことで、変動環境に対してリスク回避しているというものである。多くの昆虫種では、各幼虫個体が確率的に休眠延長していると考えられている。本講演では、数理モデルを用いて、樹木と種子食性昆虫の間での豊凶と休眠延長戦略の共進化的軍拡競争を議論する。樹木の豊凶は貯蔵資源の蓄積と繁殖投資のバランスによって引き起こされると考える「資源収支モデル」を採用する。一回の繁殖機会への資源投資量が一年の蓄積量を上回る場合には変動繁殖が引き起こされる。よって繁殖への資源投資量を司るパラメータの進化を議論する。種子食性昆虫は、繁殖成功度がその時の種子生産量に規定されると考えられる。よって、羽化したタイミングでの種子生産が高いほど繁殖成功度は高い。幼虫の羽化に際して休眠延長する確率が進化すると考える。これが0の場合にはすべての個体は出生の翌年に羽化する。進化モデル解析の結果として:(1)種子食性昆虫の存在は、豊凶の進化を促進するが、豊凶進化に対する必要条件でも十分条件でも無いこと。(2)休眠延長の存在によって豊凶の変動は大きく進化すること。(3)豊凶の存在は休眠延長率の進化を引き起こし、豊凶の変動が大きいほど、休眠率が高く進化すること。2と3の結果、共進化的軍拡競争が起こることを示す。