| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W12-3 (Workshop)
本発表では、土壌中の菌類のうち「外生菌根菌」と呼ばれる機能的分類群に着目して、群集・多様性傾向についての研究事例を紹介する。外生菌根菌は多くがキノコを作る菌類の仲間で、主に樹木の根に共生している。菌根菌は樹木が光合成で作る炭素を吸収して生活し、樹木は菌根を形成することで土壌中の養水分を効率的に吸収できる。冷温帯に優占する多くの樹種はこの菌根共生なしでは自然界で生存することができない。これまで世界各地で菌根菌調査が行われ、系統的にも機能的にも多様な菌根菌種が存在することが明らかとなった。
菌根菌は生態系の物質循環、生物多様性維持に重要な役割を持つが、近年の急激な環境変動は菌と樹木、その共生関係にどのような影響をもたらすのか。分子解析技術の進歩によって多くのデータが得られ、環境変動の影響について新しい知見がもたらされている。例えば、日本各地では多くの研究者によって菌根菌種の塩基配列データが集められており、こうした情報を集約して広域スケールで群集解析したところ、土壌中の菌根菌も気候変動の影響を受ける可能性が明らかとなった。菌と樹木で気候変動に対する応答が異なり、その共生関係のバランスに変化が生じる可能性がある。
一方で、サンプル数の限界やOTUでは一概に捉えきれない菌種の定義など、群集解析結果を解釈する上で考慮すべき点もある。野外で得られる菌群集データを扱う上での課題など考えてみる。