| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W15-1 (Workshop)
ヒトからの干渉を回避するために厳重に生息地情報が管理されてきたシマフクロウだが、生息地情報が洩れて「多数のヒトが見に行ってしまった場合」への対応は想定されてこなかった。しかし、写真撮影を伴うバードウォッチング嗜好の高まりが生息地への来訪者を増やし、中には個体や巣を探し回り近距離から写真を撮ろうとする者も現れた。餌付けにより野生個体を誘引し客に観察や撮影の機会を提供する宿泊施設も複数存在している。
シマフクロウの観光利用における現状の問題点をいくつか列挙すると、
1)餌付けにより個体を誘引している。
2)生息地情報を拡散している。
3)「観察」ではなく「撮影」が主目的である。
4)見る人に対する教育効果が乏しい。
5)営利目的利用であり、保全に貢献していない。
6)「見方」「見せ方」についての規制やルールが存在しない。
などがあげられる。
個人の営利目的による絶滅危惧種への餌付けや観光利用が規制無く行われている現状を看過すべきではなく、保全方針に反する利用は規制対象としたうえで、個体に悪影響を及ぼさず普及啓発効果の高い見せ方も追及する必要があろう。
演者は絶滅危惧種に悪影響を与えない「見せ方」を確立することを目的とし、保全への貢献と教育効果を兼ね備えた情報公開手法として、IT技術を活用した遠隔地からの生息地監視手法を構築してきた(三井物産環境基金助成 2013-2018年)。シマフクロウの繁殖巣の画像をインターネット経由でライブ配信し、閲覧者を対象に監視および普及啓発の効果と問題点を調査している(旭硝子財団環境フィールド研究近藤記念グラント助成 2016-2018年)。ウエブサイト閲覧者は、シマフクロウへの愛着が増し、保護すべきとの思いが増大することなどその効果が検証できつつある。これからは、絶滅危惧種の生息地を市民の目で見守り、知識や共感も提供する保全手法として汎用性を高めていきたいと考えている。