| 要旨トップ | ESJ66 自由集会 一覧 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W15  3月16日 17:00-18:30 Room E

絶滅危惧種保全と観光利用共存のためにできること
How can endangered species tourism coexist with conservation?

早矢仕有子(北海学園大学)
Yuko Hayashi(Hokkai Gakuen Univ.)

 絶滅危惧生物においては、希少性が高まるとそれ自体が価値となり、見に行こうとする人の入込みが生息地を撹乱し、絶滅の危険性を増大させる恐れがある。そのため、希少種保全政策においては、生息地に関する情報を非公開とし、人の侵入を防ごうとすることが多い。定住性が強く通年でなわばりを維持するシマフクロウなどの猛禽類では、とくに生息情報の厳重な管理が重視されてきた。
 しかし、生息情報を完全に隠すことは不可能であり、個体や巣を探索し、接近して写真を撮る人たちの存在は常に保全への脅威となってきた。また、生息情報を隠し、行政や研究者など少人数の関与で保全を進めることで、市民が関心を持ち保全活動へ参加する機会が奪われるため、保全への理解や共感が育まれず、長期的には大きな不利益となる恐れがある。
 一方、本来の生息地からかつて姿を消し再導入により個体数を増やしているコウノトリでは、積極的に住民や観光客に生息地を公開し地域主体での生息環境保全に取り組む中で、コウノトリを軸とした地域活性化に成功している。同様に水田や里山が再導入対象地となっているトキにおいても、その存在が地域の資源価値を高めることに貢献している。ただ、人里での再導入事業であるため、報道関係者や観光客の観察行為による私有地への侵入や、個体への接近による行動阻害などの弊害も懸念されている。
 世界自然遺産登録を目指す奄美大島では、観光客数の増加に伴い、希少動物の交通事故や観察・撮影行為による悪影響が問題となっている。とくにアマミノクロウサギなど夜行性動物の観察行為は、近距離への接近や照明機材の使用を伴うことで昼行性動物よりも人為的悪影響が大きいことが危惧される。
 本集会では、観光利用対象となっている絶滅危惧種を材料に、観察や撮影行為を伴う観光利用と保全を両立させるための課題と将来への展望を、生態学・社会学・経済学的知見から多面的に検討する。

[W15-1]
絶滅危惧種のバードウォッチングと保全の葛藤-見に行かずに見守ろうー 早矢仕有子(北海学園大学)
Conflict between birdwatching and conservation for an endangered species: proposal of owl-friendly remote watching method Yuko Hayashi(Hokkai Gakuen Univ.)

[W15-2]
象徴種トキの保護増殖と持続可能な自然共生社会の推進 岡久雄二(環境省)
The flagship Crested Ibis reintroduction and promotion of sustainable community to live in harmony with nature Yuji Okahisa(Ministry of the Environment)

[W15-3]
野生動物ツーリズムの価値を可視化する 久保雄広(国立環境研究所)
Unpacking values of wildlife tourism Takahiro Kubo(NIES)

[W15-4]
絶滅危惧種利用の順応的プロセスデザイン 菊地直樹(金沢大学)
Adaptive process design for endangered species utilization Naoki Kikuchi(Kanazawa Univ.)


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