| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W15-2  (Workshop)

象徴種トキの保護増殖と持続可能な自然共生社会の推進
The flagship Crested Ibis reintroduction and promotion of sustainable community to live in harmony with nature

*岡久雄二(環境省)
*Yuji Okahisa(Ministry of the Environment)

2008年から佐渡島においてトキの再導入が実施されている。佐渡は100年近い朱鷺保護の歴史を有し、トキは佐渡市民にとって地域の誇りとなっている。そのため、地域住民には朱鷺保護の意識が強く、トキの利活用は限定的である。ただ、トキは二次林や水田などが混在する里地里山という二次的自然に生息する生物であり、佐渡島における人口減少と高齢化による里地里山の放棄は、トキの好適生息地の減少に繋がっている。そのなかで長期的に安定して存続可能なトキの個体群を維持するためには、朱鷺保護を社会経済活動と関連付ける環境保全型農業や自然観光資源活用が重要である。とくに観光活用については、保全の持続可能性を確保する手段として位置付け、保護増殖の取組に与える影響と公開による効果を評価し、住民を含む関係者との合意形成に基づいた利活用を進める必要がある。こうした観点に基づき、佐渡島では人の接近がトキに与える影響を評価し、地域の合意に基づく独自の観察ルールを策定・普及するとともに、トキ保護の歴史を有する一部地区を対象として観光客が訪問しやすい環境整備(田んぼアート、飼育トキ公開施設、野生トキ観察場所、野生トキ展望施設、河川の自然再生等)が進められている。
これらの取組による地域の活性化は朱鷺保護活動への労働力流入や意欲向上に繋がることが期待されるものの、多くの取組が行政主体であることから、地域にとっての直接的なインセンティブの確保に課題を残している。今後、トキの利活用という視点が佐渡に浸透し、より多様な主体によって自然観光資源活用が進められることで、持続可能な自然共生社会の実現が期待される。


日本生態学会