| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W16-3 (Workshop)
海洋島である小笠原諸島の母島では,かつて海鳥が陸域生態系にNやPを海洋生態系から運び込み,高標高地域を中心に広く富栄養的な土壌環境を形成していたことが明らかになった.同じ小笠原諸島でも,媒島や北ノ島では現在も海鳥が繁殖しており,これらの場所の土壌は富栄養的である.現在は外来生物等の影響によって海鳥が繁殖していない場所でも,海鳥を呼び戻すことによってかつての栄養塩循環系が回復し,生態系もかつての姿を取り戻す可能性があるだろう.一方で,小笠原諸島のすべての地域が富栄養的であったわけではなく,貧栄養的な環境も広く分布していたと考えられる.とくに,急傾斜地に見られる露岩地帯では土層がほとんど発達しておらず,貧栄養的であったと考えられる.
ネズミ,ネコ,ヤギといった外来種は,海鳥の営巣を妨げることによって,あるいは植生の後退や踏圧に伴う土壌流出によって,土壌環境の貧栄養化を進め,同時に土壌特性の改変を通じて植生も変えたと考えられる.一旦表層土壌が失われると,もとの土壌特性が回復するまでには極めて長い年月が必要である.とくに,下層土が露出すると,強い土壌酸性とともに,低い交換性Ca/交換性Mg比が植物生産性を制限することになる.一方で,ギンネムやモクマオウといった外来種は,共生微生物が固定したNを生態系内に組み込むため,環境の富栄養化をもたらしている側面がある.しかし,海鳥による富栄養化とは,質的にも地理的にも異なる新たな富栄養化であるため,これら外来種の侵入には注意が必要であろう.
今後は,すでに生態系に組み込まれている外来種の現状や機能を考慮に入れつつ,適正な管理法を模索していく必要がある.その際には,生態系の物質循環系の視点も重要であり,そのためにはかつての生態系の姿をより明確にしていく研究が必要であろう.