| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W16-4 (Workshop)
野生化したヤギ(以下ノヤギ)による攪乱は、植生退行と表層土壌の露出を引き起こすことがある。露出した表層土壌の流出の結果、土壌の化学特性の改変が起こる。このような攪乱に伴う土壌改変は、植物の定着を制限し、結果的にノヤギ駆除後の生態系の回復に影響を及ぼす可能性がある。
本研究では、ノヤギの攪乱の結果、土壌流出が起きた草地生態系においてノヤギ駆除後の土壌流出の程度、土壌の化学特性、植物種の出現パターンとの関係を明らかにした。さらに、土壌流出に伴う土壌の栄養塩量とpHの変化が草本植物の初期成長に及ぼす影響を栽培実験によって評価した 。
小笠原諸島媒島において、土壌の流出と流入の程度、裸地化の程度、地形、土壌の化学特性、植物の種構成の関係について野外調査のデータに基づいて解析した。その結果、裸地化に伴う土壌の流出は、土壌の化学特性、特に植物が利用可能なリンの量やpHを変化させ、結果的にノヤギ駆除後の植物種の出現パターンに影響を及ぼす可能性がある、ということが示唆された。
媒島の下層土を用いた栽培実験の対象種は、媒島の草地植生で優占するイネ科3種(シマスズメノヒエ、スズメノコビエ、フタシベネズミノオ)とキク科3種(ホウキギク、シロバナセンダングサ、ウスベニニガナ)である。施肥処理を施した土壌において植物を人工気象室で4週間栽培し、乾燥重量を比較した。その結果、土壌流出に伴う栄養塩、特に可給態リンの減少は植物の初期成長を強く制限する、この制限は土壌pHに依存する、この依存の程度・方向性は種によって異なる、ということが示唆された。
以上は、ノヤギによる攪乱に起因する土壌流出の結果、攪乱前の生態系に比べ機能がより劣化した生態系にシフトしたことを示唆する。そのため、たとえノヤギの駆除をしても土壌環境の改善がないかぎりは攪乱前の生態系機能が回復する可能性は低いと考えられる。