| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W17-4  (Workshop)

食いつ食われつ翅なくす:クチキゴキブリの雌雄が配偶時に行う翅の食い合い
Female and male of wood-feeding cockroach in the mating pair eat wings each other

*大崎遥花, 粕谷英一(九州大学)
*Haruka OSAKI, Eiiti KASUYA(Kyushu University)

配偶ペアのオスとメスが交尾の際に互いの体の一部を食い合い、その後両親で子育てをする生物をご存知だろうか。何を隠そうゴキブリである。
リュウキュウクチキゴキブリはオスとメスが交尾の際に互いの翅を食い合う。本種の新成虫は長い翅を持ち、繁殖時期には飛翔、分散するが、雌雄が出会うと配偶時に相手の翅を付け根近くまで互いに食い合う。既知の性的共食いは、いずれも片方の性が相手を一方的に食う例であり、互いに食い合う例は共食い全体で見ても他にない。更に、体の一部を食うだけなので相手を食い殺さない点、雌雄に体サイズ差が見られない点、翅の食い合い後は子の保護を両親で行う点も相まって、既知の共食いとはかなり異質な現象と言えよう。しかし、本種では配偶時にほぼ必ず起こるため、何らかの意義があるに違いない。さらに、生涯同じ相手と一夫一妻を維持するという生態から、雌雄の利害対立が存在しない可能性があるが、このような状況の実証例は未だない。これを示すことができれば、全く新しい繁殖戦略の存在を明らかにできるだろう。そしてこれが明らかになれば、性的対立が多かれ少なかれ存在する他の繁殖戦略をもう一度新たな観点で捉え直し、性による利害の不一致の影響が及ぶ範囲を明らかにできるのではないか。しかしながら、翅の食い合いについて出版された文献はなく、翅を食い合う意義の検証も当然行われていなかった。これでは意義の検証など夢のまた夢。このため講演者は、まずは翅の食い合いが実際どのような過程を経て起こるのかビデオ撮影を用いて解明する段階から始め、試行錯誤と研究を重ねてきた。本講演では、飼育条件下で撮影した翅の食い合い映像を交えつつ、自身のこれまで研究について紹介する。そして現段階で翅の食い合いの意義の候補と考えている仮説群を提示し、生涯たった一頭の相手と添い遂げるクチキゴキブリのラブ魂の原点について議論を深めたい。


日本生態学会