| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W18-3  (Workshop)

葉のかたちと植食者:葉の切れ込みはオトシブミの揺籃づくりを妨げるか?
Leaf shape and herbivores: Does leaf lobation disturb cradle making by a leaf-rolling weevil?

*樋口裕美子(京大・生態研), 川北篤(東大・理・植物園)
*Yumiko Higuchi(Kyoto Univ.), Atsushi Kawakita(Univ. of Tokyo)

植物の葉は多様なかたちを示すが、葉の大きさや厚さなどの他の葉形質に比べて一貫した生態的説明がなく、ほとんどの種において葉のかたちが自然界でどのように働いているかよくわかっていない。発表者は葉先が深く切れ込んだハクサンカメバヒキオコシ(シソ科ヤマハッカ属、以下ハクサン)を用いて、葉のかたちがヤマハッカ属を利用する植食性昆虫ムツモンオトシブミの産卵加工にどのように影響するか研究している。オトシブミの仲間のメスは産卵の際に葉を一枚丸ごと巻き上げ、子供のための「揺籃」と呼ばれる葉巻きを作成する。揺籃作成は着地→葉の踏査→切断→折り畳み→巻き上げといった一連の複雑で労力の要する行動をメスに課す。こうした行動は、柔軟性は高いがある程度決まっている。ハクサンはヤマハッカ属のなかで唯一葉が切れ込んでいる。そのため、この変則的なかたちはメスの定性的な揺籃形成行動を阻害するかもしれない。野外調査と室内実験から、幼虫はハクサンの葉でよく生育できる一方、メスはハクサンを揺籃基質として好まないことが明らかになった。同属のクロバナヒキオコシの切れ込みのない葉にハクサンの葉の模倣した切れ込みを入れても、メスの揺籃形成は妨げられた。揺籃形成行動を観察すると、メスはハクサンにおいて揺籃形成の初期段階の踏査をうまく完了できず、そのため多くの葉は切断により傷つけられる前にオトシブミによる被害から逃れていた。これらの結果は葉の切れ込み自体がムツモンオトシブミの揺籃形成を妨げている可能性を強く示唆する。視覚で寄主植物を探索することが知られる蝶や葉を丸ごと食べるような大型哺乳類を除き、これまで葉のかたちが植食者の忌避に働くと考えられることは少なかったが、葉を加工する昆虫では葉の「かたち」そのものが直接的に加工しやすさを介して寄主利用に影響するかもしれない。


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