| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W18-4 (Workshop)
花被片(花びら)はさまざまな色とかたちを持ち、送粉者に目立つ花の多様な形態を作り出している。しかし、花被片の表面が長時間にわたって濡れると、組織内への水の浸潤や水の荷重による変形によって花の誘引機能が損なわれる可能性がある。このため、花被片は表面の濡れ性を変えて、付着する水に対処していることが期待される。物質表面の濡れ性は、表皮表面の疎水性の度合いとともに形態的な凹凸の度合いに依存する。葉の表皮では、外表ワックスや毛(トライコーム)の発達が濡れ性に強く関係することが知られている。一方で、花被片の表皮では、主に表皮細胞や縞状に発達したクチクラによって凹凸が作られており、葉とは異なるメカニズムで濡れ性を作り出していることが知られている。筆者らは、東京大学本郷キャンパスで見られる125種の植物と東ネパールの高山帯に生息する7種の草本植物で、花被片の表面の濡れ性(接触角で評価)の測定と表皮表面の形態の観察を行い、両者の関係を熱力学に基づいた数理モデルから定量的に評価した。その結果、18 °から150 °までの広い幅での接触角が確認された。そして、向軸側の表皮は背軸側よりも濡れ性は低く、草本植物の花被片の表皮は木本植物の表皮よりも濡れ性が低いことがわかった。さらに、円錐形の表皮細胞は約60%の植物種で、縞状に発達したクチクラは約50%の植物種で、トライコームは15%の植物種で確認された。また、接触角は表皮細胞の突起の縦横比と有意な相関関係が確認された。最後に、理論的な解析により、表皮細胞の高さや幅、およびクチクラの縞状突起の密度と高さによって、多様な濡れ性を説明できることがわかった。そして、ネパールの高山帯に生息する植物種では、濡れ性を定量的に予測することができた。このように、花被片表面の濡れ性は、植物自体が制御できる形質であり、環境や生活型に合わせた性質を獲得している可能性がある。