| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W21-2 (Workshop)
現在、日本国内のワイン市場は活況を呈しており、日本ワインの生産も増加の一途を辿っている。長野県上田市のワイン用ブドウ畑であるマリコヴィンヤードでは、土壌保全などの観点から草生栽培を実施している。さらに除草剤の使用を削減し、散布する場所は極めて限定的である。このような草生栽培と垣根式のブドウ栽培により、独特な草原景観を形成している。このヴィンヤードにおいて生物相調査を実施した結果、希少種を含む288種の草原性植物、168種の昆虫類が確認された。半自然草地に代表される二次草原の急激な減少が顕著である現在において、ヴィンヤード及びその周辺の草地環境は貴重な二次草原として位置づけることができ、草原性の植物や昆虫のハビタットとして機能している。
以上の結果を踏まえて、現地を管理する企業は、ブドウ栽培により維持される生物多様性を積極的に内外にアピールすると共に、社内ボランティアやNPOを活用した草原再生(刈取り残渣を用いた草原再生)や生物相調査をCSV活動の一環として実施している。ワイン生産を通じて維持される里山の生物多様性を守りながら企業価値を高めていく試みは今後の社会にとって示唆に富む事例だと考えられる。これらの試みの詳細について報告し、里山における生物多様性の新しい維持機構のあり方を議論したい。