| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W21-4 (Workshop)
この20年余の間に里地里山生態系の研究や保全が進められてきた理由の一つには、農業等の行為を通した人々の関わりや働きかけが掛け替えのない豊かな生物多様性の維持に関与してきたという考えからであろう。例えばレッドリスト種の中には、分類群によって多くの里地里山に特徴的な生物種が含まれている(環境省 平成13年)。一方で、この「里山の生態学20年余」は農村社会の衰退期でもある。耕作者減少、超高齢化、後継者不足は今や日本中至る所で見られ、度重なる自然災害も相俟って、地方の農山漁村の中には撤退を強いられるケースも少なくない。農林水産業や農村の田舎生活スタイルの中で維持管理されてきた生物多様性も厳しい状況に置かれている。したがって、里地里山の生物多様性と農業農村の持続性の両方の危機の現実をよく見据えた、新たな里地里山のあり方の構想が急務になってきた。その構築のためには、とにかく地域の種多様性を増やし、保全志向のステークホルダーだけで守るという単鎖構造的なアクションではなく、複鎖的でより合理性のある保全アクションに向けての再調整が必要だ。ここでは演者が関わった保全現場の中でも昨年7月の西日本豪雨災害に関わる事例を中心に紹介し、絶滅危惧種と危機的な農業・農村の間の関係性についてシステムアプローチを用いて考察する。里地・里山の生物多様性が農林水産業や農村生活の行為すべてに拠っているのではなく、生物多様性に対して農業は正と負のインパクトも有し、その両面を見据えた総合的管理が必要であること。またそう考えると、里地里山を支える活動の主体は、農村に居住している主に耕作者(多くは地権者・管理者)だけでなく、地域生活者(市民)も加え、そこに様々な職能集団、一部は科学者が関わる管理社会の構築が必要である。農業や農村生活の種々の行為で守られ、る活かされる「農生物多様性」に拠り所を置くような共通認識の保全活動がステークホルダーの多様性によって実現される事が望まれる。