| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W30-2 (Workshop)
多くの地域が温帯に属している日本国内では、花粉媒介においてはマルハナバチなどの昆虫類が、種子散布においてはヒヨドリなどの鳥類がそれぞれ主要な研究対象となってきた。本集会のテーマである夜行性動物という観点から言えば、ほとんどの種が夜行性であり行動の観察が難しい日本の哺乳類の研究は出遅れた感がある。その中でも近年では、テンやツキノワグマなどの食肉目やニホンザルなどの研究が発展し始めている。本発表で扱う食果性コウモリ類(フルーツ・バット)は、日本では琉球列島と小笠原諸島のみに分布が限られているため、地理的にもマイナーな存在であった。しかし熱帯域においては、コウモリ類が送粉や種子散布に果たす役割は非常に大きい。特に、大型の鳥類や霊長類が生息していない島嶼環境においてはキーストーン種としてふるまう事例も知られている。本発表では、演者がこれまで行ってきた琉球列島のクビワオオコウモリPteropus dasymallusについての研究例を紹介する。クビワオオコウモリが利用する植物は120種以上にも及び、このうち少なくとも7種の在来植物の送粉と20種の在来植物の種子散布を行っていた。鳥媒とされる移入種デイゴErythrina variegataの花蜜利用に関しては、早い時間帯で利用するなど柔軟な採餌行動の変化が見られた。種子散布に関しては、鳥散布型の果実を利用する採食幅の広さに加え、熱帯性のFicus属への依存が強いといった保守的な採食傾向と大型の種子を散布する島嶼での機能も保持していた。亜熱帯でのオオコウモリ研究は、温帯や熱帯のそれぞれの特性を理解する上でも興味深い。このような利点があるにもかかわらず、コウモリ類の研究が進まない要因として、夜行性という難しさに加え、飛翔によって広範囲を瞬時に移動してしまう問題に対処する必要がある。発表では演者が行ってきた独自の工夫についても言及したい。