| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-03 (Oral presentation)
大腸菌などの単細胞生物では、高密度下で細胞の自死をもたらすプログラム細胞死(PCD)が誘導されることが知られる。その進化は、細胞の死が遺伝的クローンに利益を提供する、血縁淘汰の観点で説明される。細胞死が他の細胞に与える利益に関しては様々な説が提案されているが、その一つに細胞死が資源制約を緩和することでクローン細胞の増殖を促進するという説がある。このメカニズムによるPCD進化の可能性とその条件について、コロニー定着モデルを拡張して理論的に検討した。コロニー定着に適したサイトを無数に含む生息地を想定し、各々のサイトは空きサイトか、単一クローンのコロニーによって占められた状態のどちらかであるとする。各コロニーはロジスティク成長をする一方で連続的に細胞を放出し、それらは別なサイトへと分散する。分散先が空きサイトの場合は速やかにコロニーが形成されるが、先住コロニーがある場合には両者の間で競争が起こり優勢な系統がサイトを占有する。細胞の放出量とコロニー形成における競争力の間には、PCDによって決まる平衡コロニーサイズを介したトレードオフが生じる。すなわち、細胞放出量は中間的なPCDレベルに伴う中間的なコロニーサイズで最大になるのに対して、コロニー間の競争力はより低いPCDレベルに対応したより大きな平衡コロニーサイズを持つ系統で高くなる。こうした条件の下で、異なるPCDレベルを持つ多系統が示す進化動態を調べた。解析の結果、コロニーから放出された細胞が別なコロニーに出会うプロセスによって、動態が大きく異なることが分かった。ただいずれ場合も、攪乱によるコロニーの消失確率が大きく、また放出された細胞とサイトの出会いの確率が小さいほど、PCDレベルがより高まりプログラム細胞死が顕著になることが分かった。これらの条件は系統間の相互作用を低減することで、コロニー内の血縁度を高める要因として働いていると解釈できる。