| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-06 (Oral presentation)
Leslie (1945) の名前で知られる年齢構造を組み込んだ生物集団の行列モデルは,これまでに数学的な特徴が詳細に調べられてきたし,生物集団のデータをより深く理解するためにも多くの研究者によって利用されてきた.しかし,元々の Leslie 行列の要素は定数として与えられているために,特に生物集団の長期的なダイナミクスを考える場合には,将来の状態を正しく予測できない可能性がある.そこで,Leslie 行列の要素を密度に依存して時間変化することが考えられてきた.魚類のモデルとして,繁殖を表す一行目の要素を Ricker 型の密度依存にしたり(Levin and Goodyear, 1980),一齢の個体の繁殖と生存に対応する一列目の要素を Beverton-Holt型の密度依存をするもの(DeAngelis et al., 1980)等が検討されてきた.近年では,Wikan and Kristensen (2017) が,密度依存のある年齢構造行列モデルに現れる複雑な挙動をまとめている.ところで,Beverton-Holt モデルは連続時間ロジスティックモデルの挙動と同じく平衡点に近づくだけであるのに対して,Ricker モデルはパラメータに依存して平衡点に近づく単純なものから,カオティックな複雑な振る舞いをするものまで様々である.このような元来の性質を反映してか,上に挙げた先行研究では,Beverton-Holt 型の行列モデルでは平衡点が安定であることが示されているだけで,あまり詳しく調べられていない.そこで,ここでは,小さな行列モデルに対して,Beverton-Holt 型の密度依存を入れた場合のダイナミクスを報告する.