| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-07 (Oral presentation)
人工的に不妊化した害虫(不妊虫)を用いて、野外の害虫(野生虫)の根絶を目指す不妊虫放飼法(SIT)では、不妊オスのみを放飼する場合(不妊オス放飼)と不妊メスも含めて放飼する場合(両性放飼)とで、どちらがより防除効果が高いかがしばしば議論されてきた。本研究では、野生・不妊雌雄の求愛、及び配偶者選択を明示的に考慮した数理モデルを用いて、不妊メスの有無がSITの防除効果に与える影響を調べた。オスは一定の確率でメスを発見し(メス発見率)、発見した全てのメスの中から1個体を自身の選好性(野生 or 不妊)に応じて選択して求愛する。メスは自身に求愛してきた全てのオスの中から1個体を自身の選好性(野生 or 不妊)に応じて選択して交尾すると仮定した。また、オスは複数回の探索と求愛を行うと仮定した。以上より、オスのメス発見率と雌雄の選好性が野生-不妊虫間で異なる場合を考慮し、それらが不妊オス放飼と両性放飼の防除効果に与える影響を調べて比較した。その結果、野生-不妊虫間で選好性に差がない場合、不妊オスのメス発見率が小さいときに両性放飼がより有効になることが分かった。これは、不妊メスがいることで、野生-不妊オス間のメスを巡る競争が緩和され、メス発見率の大小がオス間の配偶者競争の結果に影響しづらくなったためと考えられる。また、野生オスの選好性が野生-不妊メス間で差がなければ、野生メスの選好性に関わらず両性放飼がより有効であった。一方、野生オスの不妊メスに対する選好性が低い場合には不妊オス放飼がより有効になりやすいことが示された。以上より、野生オスの選好性に野生-不妊メス間で差がなければ、不妊オスのメス探索能力が小さい場合でも、不妊メスの存在によってSITの防除効果は促進されうると結論付けた。