| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-08 (Oral presentation)
生態系変化をコンピュータシミュレーションを利用して予測し、生態系管理事業の計画立案や評価を試みる研究が始まっている。これらの研究は、対象となる生態系の、現在のスナップショットを再現することから始められている。しかし、生態系はそれぞれ固有の進化の歴史を持ち、構成種の性質や種間相互作用は生態系進化を経て形成されたものなので、それぞれの生態系の進化的な背景を考慮しなければ、生態系変化を正しく予測することはできない可能性がある。特に小笠原諸島のような海洋島の生態系は、外部から隔離されて進化するという特殊な進化の歴史を持つので、より進化的背景の影響が大きくなると考えられる。そこで本研究では小笠原諸島媒島の物質循環を再現したYoshida et al. (2019)の生態系モデルに進化過程を導入した新しいモデルを開発した。このモデルでは外来種侵入前の原始状態である全島森林化した生態系を8割以上の確率で効率良く再現できた。この状態の生態系に外来種としてヤギとネズミを侵入させると森林が縮小し、草原と裸地が拡大する傾向が見られた。その後で外来種を駆除すると6割程度の確率で森林が回復した。回復しなかった生態系について、外来種駆除前の状態を解析した結果、これらの生態系には、土中の栄養塩量が小さく、草食・肉食性無脊椎動物の多様性が低く、森林面積が小さい傾向が見られた。また、これらの生態系の外来種駆除前の森林・草原・裸地の比は、実際の駆除前の媒島のものに酷似していた。実際に媒島では外来種駆除後も植生の回復が遅れていることが問題となっているが、本研究の結果は、媒島は外来種駆除前の状態で既に森林が回復しにくい状態に陥っており、今後も急速な森林の回復は起こらない可能性を示唆している。