| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-11 (Oral presentation)
熱帯雨林や珊瑚礁などの巨大な生態系の種数や個体数を調べると,種個体数分布(Species abundance distribution)や種数面積関係(Species-area relationships)などの特徴的な生物多様性のパターンが普遍的に見出される。これに関して、Hubbellの中立モデルは、現実的な個体群動態に基づき、主に熱帯雨林、珊瑚礁、固着性生物群集などの単一機能群に属する大規模生態群集の種個体数分布を定量的に予測する数少ない多種群集動態モデルのひとつであり、最近は非平衡統計力学的手法も適用され、マスター方程式や集団遺伝学における合祖過程(Coalescent process)に対応する確率モデルの厳密解(ゼロサム多項分布)も得られているが、全ての種の個体当たりの出生率,死亡率,分散率などが種・個体に寄らず等しいという非現実的な中立仮説が批判され、理論・実証研究者間の論争が続いている。一方、複数の栄養段階にわたる競争、相利、捕食などを含む複雑な種間相互作用をもつ大規模生態群集ネットワークにおける生物多様性のパターンに関しては、ランダムな種間相互作用をもつ非線形個体群動態モデルの大域的平衡点の安定性とそこでの種個体数分布が、統計力学的手法により解析的に調べられてきた(Tokita 2004, Yoshino et al 2008, Obuchi et al. 2016)。ここでは、Kerner(1957)の理論に基づき、大陸などの熱浴的な巨大な生態系との資源や個体の移出入がある局所食物網モデルを考え、平衡点が不安定化して個体群動態がカオスになる場合の種個体数分布を解析的に予測する理論的研究の結果を報告する。