| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-12  (Oral presentation)

腸内細菌叢の数理モデルとその相互作用行列の解析
Analysis of mathematical model of gut flora and its interaction matrix

*田口優真, 時田恵一郎(名古屋大学)
*Yuma TAGUCHI, Kei TOKITA(Nagoya Univ.)

近年,日本において,潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の患者数が増加傾向にある。その原因の一つとして考えられるのが,腸内細菌叢の影響である。腸内細菌叢の多様性が低下する,いわゆるdysbiosisという状態が,このような炎症性腸疾患や,それだけでなく,腎臓病や自閉症スペクトラム障害,肥満などにも影響する可能性が示唆されている。そのため,腸内細菌叢の全容解明が,このような疾患の治療や予防の観点から注目されている。
しかしながら,腸内細菌叢は我々の腸内で数百種類,数十兆匹以上の個体が巨大な生態系をなし,複雑な相互作用をしていると考えられているため,全容解明は簡単ではないことが予想される。そこで我々は,実データを用いたパラメータ推定より,相互作用を推察し,全容解明に寄与できる可能性を考える。
実際に,Marino et al(2014)において,マウス腸内細菌叢を17種のOTUに分類し,その存在量データに数理モデルをfittingさせる形でパラメータを推定している。ここで得られた相互作用行列を解析したところ,非対称ランダム行列に近い形となっており,これはMay(1972)で解析されたランダム行列の実例となっていることが考えられる。また,その相互作用行列を用いたシミュレーションの結果,カオスや大量絶滅など,興味深い結果が得られた。
実際にMarino et al.(2014)などで用いられた,多自由度非線形進化力学系の推定にも対応したアルゴリズムの精度の検証も行った。Lotka-Volterra捕食者被食者系などの答えが既知のモデルから生成したデータを用いて推定を行った結果,比較的良い推定結果が得られた。さらに精度を向上させるため,ノイズに対する処理などについても考察を行う。


日本生態学会