| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) L01-12 (Oral presentation)
茨城県桜川市は古くから山桜の名所として知られており、山桜をシンボルとした町づくりが進められている。ここでいう山桜とは、ヤマザクラとカスミザクラ(以下、ヤマザクラ類)のことであり、桜川市を含む筑波山系の里山では、春に山桜の美しい景観を楽しむことができる。一方で、日本各地では伐採を伴う里山管理が衰退傾向にあり、筑波山周辺においては1980年ごろから大規模な松枯れも発生しているため、森林構造の変化が予想される。そこで、本研究ではヤマザクラ類が将来も継続して生育できる環境を推測するために、桜川市内の森林において、ヤマザクラ類の幼木の生育状況を調査し、更新の起こっている森林の特性を明らかにすることを目的とした。
桜川市内の筑波山系を中心に、12カ所の調査地を選定し、20mx20mの調査プロットを1地点あたり3つずつ設置して毎木調査を行った。調査は、胸高直径2cm以上の樹木を対象とした。その結果、ヤマザクラ類の胸高直径階分布が明瞭なL字型を示す更新良好地が3か所みられた。また、胸高直径が9cm以下のヤマザクラ類の幼木個体数と森林特性との関係を、一般化線形混合モデルを用いて調べたところ、萌芽率が高く、シラカシの個体数が多く、アカマツの枯死木数が少ない森林で多く生育する傾向にあった。各調査地に複数回出現した種の個体数データをもとに非計量多次元尺度法(NMDS)による序列化を行ったところ、ヤマザクラ類の幼木が多く生育している森林とそれ以外の森林の種組成に明瞭な違いは見られなかったが、ヤマザクラ類の幼木が多い森林には関東地方の二次林の主要構成種であるコナラ・クリ・アカマツなどが優占していた。萌芽率と幼木個体数との間に正の相関がみられたことから、萌芽更新を促す里山管理は、山桜の景観を保全する上で重要であると推測された。