| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム MES02-2 (Presentation in Symposium)
動物において、DNAメチル化が発生プログラムや環境応答における遺伝子発現に深く関与することが知られているが、植物においてDNAメチル化は、トランスポゾンといったヘテロクロマチン遺伝子の安定的な発現抑制に作用する事はよく知られているものの、発生プログラムや環境応答における遺伝子発現に関与する例は、あまり知られていない。一方で、DNAメチル化量が著しく減少するシロイヌナズナのDNAメチル化維持酵素の変異体met1では、いくつかの器官発生や環境応答に異常が観察される事が報告されており、植物でもこれらの過程にDNAメチル化が作用すると考えられる。しかしながら、どの遺伝子におけるDNAメチル化が発生プログラムや環境応答に作用するのかが明らかになっている例は、種子形成に関わるインプリンティング遺伝子や、トマト果実の追熟過程に関わる遺伝子など、まだまだ少数である。
植物ではしばしば世代間でDNAメチル化の情報が維持され、DNAメチル化のパターンの変化(エピ変異)によって引き起こされる表現型の変化が次世代まで引き継がれる。私たちは、met1変異体と野生型を交配することで確立された、ゲノム上の各部位でDNAメチル化のパターンが系統ごとにそれぞれ異なる、エピジェネティック組換え自殖系統群(Reinders et al. 2009)の中から器官発生や環境応答に異常が観察されるエピ変異体の候補を単離することに成功した。
現在、1.カルスからの再生効率の上昇する系統、2.葉の形態が変化する系統、3.病原性細菌の抵抗性の上昇する系統、に着目して研究を進めており、どの遺伝子におけるDNAメチル化の変化がこれらの表現型を引き起こすのかを明らかにすることを試みている。本研究の成果が、植物の発生プログラムや環境応答におけるDNAメチル化の役割を明らかにするだけでなく、DNAメチル化の変化に起因する種間・系統間にみられる表現型の多様性の理解にもつながると私たちは考えている。