| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム MES02-4 (Presentation in Symposium)
表現型は現在の環境のみならず親やそれ以前に経験した環境にも影響を受ける。生物はその環境変化に応答して柔軟に形態を変化させる表現型可塑性を有しており、世代を超えて継承される表現型可塑性が適応的であるという例も知られている。遺伝的変異を伴わないエピジェネティック修飾の変化は、環境変化に対して迅速かつ柔軟に応答する仕組みであり、生育環境への適応進化にも関わると考えられる。しかしながら、短期的および長期的環境に対する表現型の変化と、遺伝子発現ならびにエピジェネティック修飾の持続性との関係は十分理解されていない。本発表ではクローナル植物のクローン株における対照的な環境下での表現型変異とエピジェネティック修飾の差異について紹介する。
Cardamine flexuosaは乾燥環境に生育する2倍体非クローン性親種Cardamine hirsutaと湿潤環境の2倍体クローン性親種Cardamine amaraのゲノムを持つ異質4倍体種であり、地上茎からクローン成長を行う。C. flexuosaは親種の生育環境で葉や根の表現型が変化し、その際の遺伝子発現に両親種ゲノム間の差異が確認されている。両親種の生育環境下で12-13世代継代させた株について、ヒストンのメチル化修飾を調べたところ、環境の異なる株間で光合成関連遺伝子や防御関連遺伝子に違いが認められた。差異が見られた遺伝子に乾燥や水ストレス、表現型に関わるものには含まれなかった。また大部分の遺伝子で乾燥条件の株の修飾量が増加していた。Arabidopsis halleriを異なる光条件下でクローン株を生育させた場合、DNAメチル化は安定的で条件間で類似したパターンを示した。したがってエピジェネティック修飾は環境に伴って変化するものの、その変化領域は長期的な環境で維持される応答とは必ずしも一致しないことが確認され、さらなる遺伝子発現と修飾機構の統合的な解析を進めている。