| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム MES02-5  (Presentation in Symposium)

甲虫の武器サイズにおける発生可塑性とエピジェネティック機構
Developmental plasticity and epigenetic regulation of a beetle weapon

*岡田泰和(首都大学東京)
*Yasukazu OKADA(Tokyo Metropolitan University)

カブトムシの角やクジャクの羽は,オス間競争やメスによる選り好みで進化してきた性選択形質である.性的な武器や装飾は“誇張形質”(exaggerated trait)とも呼ばれ,その巨大さ・美麗さにまず目が行く.だが,こうした二次性形質にはサイズや形状に種内で著しい多様性・多型性が見られる.この変異の大きさは,誇張形質のもう一つの重要な特徴である.私たちは,武器の種内バリエーションが生み出される進化的仕組み,および至近的仕組みの両者に注目し,武器サイズ変異を生み出すメカニズムの統合的理解を目指している.
 対象として主に,オスが縄張りをめぐる闘争を行い,武器としての大顎を発達させた甲虫,オオツノコクヌストモドキ(Gnatocerus cornutus, オオツノ)を用い,1)武器モジュールの成長が高い栄養応答性を示す発生可塑性のしくみ,2)オス特異的に武器が発現するしくみ,について研究を進めている.オオツノは幼虫期の栄養条件に応じて,成虫形態の発生時にオスの大顎サイズが非常に大きく変化する一方で,交尾器などの多くの他器官はサイズが相似形的にしか変化しない(体サイズ-器官サイズの相対成長/アロメトリ関係が異なる).こうした器官ごとの栄養応答性を司る仕組みとして,インスリンなどの成長因子やヒストン修飾など,細胞の状態を規定するエピジェネテイック因子に注目し,発生期の遺伝的操作(RNAi)を駆使した生態発生学的研究を進めてきた.講演では,1)武器モジュール特異的な栄養応答を担うインスリン様ペプチドの働き(GcorILP2, Okada et al. 2019, PLOS Biol),2)各組織の発生の安定性と可塑性の”幅“を司る可能性があるエピゲノム機構(HDAC, Ozawa et al. 2016, PNAS),3)オス特異的な武器発現を司る性分化機構と遺伝子発現制御の相互作用,について研究を紹介する.


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