| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S03-1 (Presentation in Symposium)
ササタケ類は発芽後、長期間クローナル成長した後に一斉に開花しその後枯死する一回繁殖型多年生植物である。発芽から開花までの期間は種によって異なり、東アジアの広い範囲で地理的な傾向を示すことが知られている。熱帯に分布する種は数年で開花枯死に至るが、分布を北上するに従い、これが長くなっていく。日本では120年に一度、大規模に開花枯死する種が知られている。本講演では、発芽から開花までに要する時間を進化形質として捉え、地理的傾向の創出機構について、空間占有戦略の観点から議論する。ササ類では開花習性に加え、クローナル成長の特性にもまた系統的かつ地理的な傾向がみられる。熱帯の種は地下茎が短く個体が株立するが、温帯の種は水平に長い地下茎を展開し、個体が空間的に入り交じるように分布する。この地下茎構造の違いに伴う個体の空間分布様式の違いが開花習性の進化に与える影響を空間明示的シミュレーションにより検討した。その結果、野外で知られる分布パターンと同じく、地下茎が長いほど発芽から開花までの待ち時間が長く進化することがわかった。開花までの待ち時間は、クローナル成長と種子繁殖の効率に規定され、クローナル成長効率が高いほど待ち時間が長く進化した。地下茎が短い場合には、自身が株立することでクローナル成長により空間に広がる効率が成長とともに低下していくことがわかった。このため、しばらくクローナル成長すると空間に広がる効率が低下するため、短期間で開花し種子繁殖へと切り替えることが合理的な戦略となると考えられる。地下茎構造は開花時間の進化に影響を与える要因であったが、地下茎構造それ自体もまた進化形質として捉えることができる。本講演のまとめとしてササタケ類が熱帯から温帯へと分布を拡大するプロセスで地下茎構造と開花時間がどのような淘汰圧にさらされて現在の地理的傾向が創出されたのかについての仮説を提示したい。