| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S03-4 (Presentation in Symposium)
褐藻類では、性を持つ世代が微視的であったり、巨視的な場合でも雌雄同型であることが多く、集団の生殖様式や性比の調査が難しい。そのためか、集団の生殖様式・性比と地理的要因にどのような相関があるのか調べた研究―これには多くの地点で集団の生殖様式を調べる必要がある―はほとんど存在しない。
カヤモノリScytoiphon lomentariaは九州から北海道まで分布する1年性の褐藻で、雌雄同型の巨視的な配偶体世代を持ち、雌雄同型配偶を行う。演者は、カヤモノリにおいて、性染色体上の性特異的配列を性判別PCRマーカーとして用い、個体の迅速な性判別を達成、大規模な性比調査を可能とした。このマーカーを用いた調査から、カヤモノリには、雌雄両個体で有性生殖する有性生殖集団(愛知・神奈川2集団)と、メス個体のみで単為生殖する単為生殖集団(北海道3集団)が存在することが分かった。この2種類の集団の分布パタンを解明するため、九州~北海道の29地点31集団で性比調査を実施した。その結果、太平洋側では、有性生殖集団は千葉県銚子以南までで、銚子以北には単為生殖集団のみが分布した。日本海側では、有性生殖集団は北海道渡島半島まで分布し、渡島半島では有性生殖集団と単為生殖集団の分布域が重なるようであった。大きく見ると、黒潮・対馬暖流流域に有性生殖集団が、親潮流域に単為生殖集団が分布しているように見える。また、両集団がほぼ同所的に存在する銚子、渡島半島江差では、波当たりの良い場所に単為生殖集団が、波当たりの穏やかな場所に有性集団が分布した。近縁種、S. promiscuusの調査でもほぼ同様の傾向がみられる。単為生殖集団は有性生殖集団よりも高緯度に分布し、同所的に存在する場合は、波当たりの強い場所に単為生殖集団が、波当たりの穏やかな場所に有性生殖集団が分布した。
今回は、上の分布パタンと分子系統解析から、Scytosiphon属における単為生殖集団の起源や進化パタンを考えてみたい。