| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S03-5  (Presentation in Symposium)

移動分散と繁殖様式が駆動する海洋生物の空間分布
Dispersal and reproductive mode drive spatial distribution of marine organisms

*熊谷直喜(国立環境研究所)
*Naoki H KUMAGAI(NIES)

陸上生物と海洋生物とでは、ハビタット空間の利用・分布パターンに違いがある。両者の違いは、空気と水という流動抵抗が大きく異なる生息空間に対応した繁殖様式と、それに伴った移動分散を行う生活史段階の相違へと関連付けられる。小規模な空間スケールの例として、固着性生物を宿主利用する小型無脊椎動物においては、陸上では成体が能動的移動によって宿主に到達し選択するが、海洋では主に生活史初期の浮遊幼生が海水の流動により輸送され宿主にたどり着く必要がある。このため陸上では、多くの植物食性昆虫のように、特異的なハビタット・宿主の選択性が発達しやすいが、海洋ではそれらの性質が発達しにくい。一方、大規模な空間スケールの分布パターンについても、海洋生物では生息環境の好適性に加え、主に浮遊期における海流による輸送が分布パターン形成に大きく関与する。さらに、浮遊期が長いほど海流輸送を受けやすくなり、気候変動に伴う分布変化速度の違いがもたらされる。本講演では、これら大・小スケールにおける移動分散が海洋生物の空間分布を形成する事例として、ソフトコーラルを利用するヨコエビの系を用いた小スケールの研究(Kumagai 2008 Oecologia)および、気候変動影響下における全国スケールの藻場・サンゴ群集シフトの研究(Kumagai et al. 2018 PNAS)を紹介する。これらを通じて、陸上と海洋という系の違いがもたらす生態学的パターン・プロセスの相違を比較する醍醐味をお伝えしたい。


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