| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S06-1 (Presentation in Symposium)
ニホンライチョウは中部山岳の高山生態系の象徴種である。北米やユーラシアの高緯度地域に分布するライチョウは,IUCNレッドリストカテゴリーでは軽度懸念であるが,ニホンライチョウをはじめとする,低緯度の高山帯に孤立して生息する集団は絶滅が危惧されている。ニホンライチョウ(以後、ライチョウ)は,既に,八ヶ岳や蓼科山では約200年前に,白山では約70年前に,中央アルプスでは約50年前に地域絶滅しており,その個体数は,現在2000羽以下まで減少していると推定されている。これまで、高山生態系の危機として、開発や踏みつけ、盗掘などによる高山植生の荒廃(第1の危機)やゴミによる汚染や捕食者の誘引(第3の危機)が重要視されていた。現在はそれらに加え、新たに、ニホンジカの採食圧増加による植生変化や生態系への影響(第2の危機)、気候変動によるライチョウや高山植生等の生息適域の縮小(第4の危機)が懸念されている。特に、南アルプス北部の北岳周辺では、ライチョウのなわばり数減少が顕著であった。こうした状況を受けて,環境省は2012年にレッドリストの絶滅危惧IBにランクアップするとともに,保護増殖事業計画を策定している。生息状況の把握や減少要因の解明のほか,生息域内の保全としてケージによる悪天候や天敵からの幼鳥保護,生息域外の保全として動物園等での飼育といった適応策を進めている。2018年には中央アルプスで雌1羽が約50年ぶりに確認された。遺伝解析からその雌が乗鞍岳あるいは北アルプス由来であると判断されたため、2019年にはその雌が産卵した無精卵を乗鞍岳から採卵した有精卵と入れ替えること(移動補助の一形態)が試みられた。これらの対策は将来の温暖化の際にも有用な適応策となりうる。本発表では、こうしたライチョウの保全に関する現状と課題を整理し、お話する。