| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S06-2  (Presentation in Symposium)

考古学資料から過去のニホンライチョウの分布を探る
Reconstructing the distribution of the Rock Ptarmigan in Japan from archaeological remains

*江田真毅(北海道大学総合博物館), 久井貴世(北海学園大, 日本学術振興会)
*Masaki EDA(Hokkaido Univ. Mus.), Atsuyo HISAI(Hokkai-Gakuen Univ., JSPS)

 ライチョウLagopus mutaは北半球北部に広く分布する鳥である。日本では、亜種ニホンライチョウL. m. japonicaが本州中部の頸城山塊、北アルプス、乗鞍岳、御嶽山及び南アルプスの高山帯で繁殖し、冬には亜高山帯にも降りて生活している。かつては中央アルプス、白山、八ヶ岳及び蓼科山にも生息していた記録がある。一方、現在でもニホンライチョウの生息可能な植生環境がある北海道や東北地方には分布していない。ニホンライチョウは氷期に大陸から本州へ南下し、間氷期にあたる現在は高山帯にのみ遺存分布していると考えられている。とくに、日本列島に移動したのは最終氷期中の約2万年前であり、その後約6000年前の完新世の気候最温暖期まで北海道や東北地方に生息していたとする議論もある。しかし、最終氷期以降、北海道や東北地方を含め日本列島においてどのようにニホンライチョウの分布が変化してきたかは良く分かっていない。そこで本研究では、遺跡から出土した骨からニホンライチョウの過去の分布の調査を試みた。遺跡の発掘調査報告書から約2万件の遺跡の情報を調べた結果、ライチョウの骨は千葉県市原市に所在する草刈貝塚の縄文時代の包含層から報告されていた。しかし、資料を実際に観察・計測し、ライチョウやキジ・ヤマドリの骨と比較した結果、ライチョウのものとは特定できなかった。一方、北海道釧路町に所在する天寧1遺跡の縄文時代後期(約3500年前)の包含層から報告されていたエゾライチョウの骨は、報告通りエゾライチョウの可能性が高いことが確認された。キジ科の骨は各地の遺跡から出土しているものの、両資料を除くとライチョウ亜科の可能性が指摘されている骨は認められなかった。今後、キジ科資料の詳細な分析からニホンライチョウの骨が確認できる可能性は否定できないものの、最終氷期以降の北海道や東北地方にニホンライチョウが広く分布してはいなかったと考えられる。


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