| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S06-4  (Presentation in Symposium)

ニホンライチョウの潜在生息域から見た分布変遷と脆弱性評価
Prediction of the past, present and future potential habitats of the Rock Ptarmigan

*津山幾太郎(森林総合研究所・北支), 松井哲哉(森林総合研究所)
*Ikutaro TSUYAMA(HRC, FFPRI), Tetsuya MATSUI(FFPRI)

日本の中部山岳における高山生態系の象徴種であり、絶滅危惧種でもあるニホンライチョウ(以下、ライチョウ)について、分布変遷と将来の温暖化に対する脆弱性を明らかにするため、生息域全域を対象に、気候変化に伴う高山植生の分布変化が同種の潜在的な生息環境(潜在生息域)に与える影響を評価した。ライチョウの潜在生息域は、1)ライチョウの縄張りを高山植物群落の面積率と尾根からの距離で予測するモデル、2)高山植生帯の成立の可否を気候から予測するモデル、3)高山植物群落の面積率を気候的な好適度(モデル2の結果)と地形から予測するモデル、で構成される3つのモデルの結果を統合して予測した。高山植物群落のデータは、ライチョウの生息環境として重要な高山低木群落、雪田草原群落、高山ハイデ及び風衝草原(風衝地群落)を、環境省提供の1/25,000植生図から抽出して用いた。尾根からの距離や100m解像度の地形データは、国交省提供の10m数値標高モデルから作成した。気候シナリオは、WorldClim1.4から、最終氷期最寒冷期(約21,000年前、LGM)、ヒプシサーマル期(約6,000年前)、世紀末(2081-2100年)のデータを入手し、各年代におけるライチョウの潜在生息域の予測に用いた。全てのモデルを良好な精度で構築することができた。ライチョウの潜在生息域の予測結果から、LGM期から現在にいたるまで、東北以北においてライチョウの潜在生息域は存在し続けていたことが明らかになった。本結果は、ライチョウが大陸から北海道経由で中部山岳に移入したことを仮定した場合、資源(植生)の側面だけでは北日本におけるライチョウの不在は説明できないことを示唆する。今世紀末におけるライチョウの潜在生息域の予測結果から、南アルプスの集団が最も脆弱であることが明らかになった。昇温の度合いが大きい場合、生息域外の富士山と北海道のみに潜在生息域が残ると予測されたことから、将来的な域外保全や移動補助も検討する必要があると考えられる。


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