| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S07-1 (Presentation in Symposium)
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)などのようにマダニが媒介する人獣共通感染症は、通常、ヒトからヒトへの直接感染がなく、蚊が媒介するデング熱のような感染者から非感染者への伝搬も生じない。すなわち病原体の受け渡しは、動物―ヒト間で生じ、必ずマダニが介在することから、マダニの刺咬リスクを減らすことが感染予防につながると考えられる。このことから私たちは、マダニ密度の増加と、それにかかわる動物について研究を進めてきた。その結果、野生動物の種多様性とマダニの種多様性との間には相関が認められるが、マダニ密度には影響しない可能性を明らかにした。しかし、ニホンジカのような特定の動物の密度とマダニ密度には、地域的に相関が認められた。さらにウイルスの分布拡大に関与する野生動物について、山口大学のデータをもとに解析を進めた。その結果、SFTS多発地帯におけるシカのウイルス抗体陽性率は5割近くにのぼり、シカ密度と正の相関を示したことから、SFTSの地理的拡大におけるシカの関与が強く示唆された。しかしシカの抗体陽性率は宅地面積と負の相関を示したことから、シカが直接的に都市に感染症を広げるとは考えにくい。一方和歌山県内の郊外で捕獲されたアライグマの抗体陽性率は、5~10年程度で急速に増加し、陽性のアライグマの捕獲範囲が4km/年程度で拡大したことから、より里地に近い地域でSFTSの拡大に寄与していることが示唆された。これらのことからSFTSをモデルとして地域レベルのマダニ媒介感染症対策、特に予防を考える場合は、多発地域では薬剤防除などのマダニ防除を実施しつつ、重要動物を特定して管理すること、また感染症発生境界地域および未発生地域では、ウイルスを広域に拡大させる可能性が高い(移動能力が高い)野生動物の密度管理を実施することという、2つの戦略が必要であると考える。