| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S07-5  (Presentation in Symposium)

感染症対応の一環としての科学的な個体群管理のあり方
Science-based population control as the wildlife disease response

*鈴木正嗣(岐阜大学)
*Masatsugu SUZUKI(Gifu Univ.)

 感染症対策としての捕獲には,疫学調査や個体群モニタリング,生息数の削減など,公的かつ多様な目的が想定される。したがって,個人的な動機を基盤とする「趣味としての捕獲」に携わる狩猟者に過度に依存することなく,科学的知見にもとづく計画的な捕獲を展開する必要がある。
 しかし日本の捕獲事業では,個人的な動機による捕獲と公的な目的を有する捕獲とが峻別されず,「趣味の狩猟者」が十分な防疫意識を備えぬまま従事することが少なくない。その結果,感染症対策の観点から憂慮すべき事案が生じている。岐阜県では,イノシシ飼育場の管理者がCSF陽性個体を扱う調査捕獲に参加し,その後,当該飼育場におけるCSFの発生が確認された。富山県では,CSF対策の一環として捕獲・埋却された個体が,イノシシによる掘り返しを受けた例が報告されている。このような状況を脱却するには,狩猟免許や認定鳥獣捕獲等事業者に関わる諸制度を改革し,公的な目的を有する捕獲に特化した人材の育成と現場配置が不可欠と考えられる。
 イノシシを対象とする経口ワクチンの散布も続けられている。このワクチンは,トウモロコシ粉やミルクパウダー等に包埋されており,イノシシ以外の野生動物に摂取される例が少なくない。ワクチン散布には莫大な経費と手間がかかるため,綿密な効果検証を行いつつ順応的に進めなければならない。実際に欧州では,イノシシの行動特性や狩猟方法などを勘案した散布手法が検討されている。しかし,日本の生息環境や地形,生物相は欧州とは大きく異なり,その直輸入は禁物である。とくに,ツキノワグマやニホンザル,タヌキ,高密度で生息するニホンジカなどに考慮した,日本に適する手法と効果検証の導入が必須である。


日本生態学会