| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S09-1 (Presentation in Symposium)
モニタリングサイト1000里地調査とは、急激に変化する里地里山の自然環境をモニタリングし、保全対策に活かすことを目的とした環境省と日本自然保護協会の協同事業である。2005年より調査を開始し、現在全国約200ヶ所のサイトにおいて、約2500名の市民調査員との実施体制を構築し、植物相、鳥類、哺乳類調査等9項目の調査を行っている。2018年までに全国から約182万件以上のデータが収集され、全国の里山の生物多様性に関する量的データが初めて得られた。
2005~2017年度の全国データを解析した結果、日本の里山において、チョウやホタルなど身近な生物種の多くが減少傾向にあることが示された。減少傾向が示された種にはチョウ類やホタル類などの昆虫類のほか、ハシブトガラス、ヒヨドリ、ツバメなどの鳥類、ノウサギやテンといった哺乳類等、ごく普通にみられていた身近な生物種の多くが含まれている。特に、チョウ類では、記録された171種のうち、出現頻度の低い種を除いた87種の個体数変化率を推定した結果、87種のうち34種(約4割)が、絶滅危惧種の判定基準(10年あたり30%減少)に相当するほど急速に減少している可能性が示唆された。これらの多くは最新の環境省レッドリストには掲載されていない普通種(アカタテハ・イチモンジセセリ等)であった。
アンケート調査の結果から、管理されていない場所を含む調査サイトが大半を占め、1/4のサイトで開発行為による生息・生育地の損失が生じていることが明らかとなった。この里山の環境変化が、上記で述べた「里山の普通種の減少」などの里地生態系の損失と関係している可能性が考えられるものの、その因果関係は科学的に検証できていない。国レベルで里地生態系の損失を防ぐためには、損失が起きる原因を明らかにする必要があり、この課題解決の方法として、減少している種の特性に着目する方法と、損失が起きている場所の特性に着目する手法があり、これらについて議論したい。