| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S10-1  (Presentation in Symposium)

過採食が爆発的増加個体群の生活史形質に与える影響
Impact of chronic over browsing on life history traits of an irruptive large herbivore population

*梶光一(東京農工大学), 竹下和貴(国立環境研), 高橋裕史(森林総研), 伊吾田宏正(酪農学園大学), 上野真由美(道総研環境研), 松浦由紀子(森林総研), 池田敬(岐阜大学), 吉沢遼(東京農工大学), 日野貴文(北海道大学), 東谷宗光(エゾシカ協会), 吉田剛司(EnVision)
*Koichi KAJI(TUAT), Kazutaka TAKESHITA(NIES), Hiroshi TAKAHASHI(FFPRI), Hiromasa IGOTA(Rakuno Gauen Univ.), Mayumi UENO(HRO), Yukiko MATSUURA(FFPRI), Takashi IKEDA(Gifu Univ.), Ryo YOSHIZAWA(TUAT), Takafumi HINO(Hokkaiddo Univ.), Munemitsu AZUMAYA(The Yezo Deer Association), Tsuyoshi YOSHIDA(EnVision)


1.大型草食獣の過採食によって植生が衰退した生息地においても、高密度個体群が維持されている事例が世界各地で観察されているが、その要因を調べた研究は限られている。
2.植生が枯渇した生息地において、大型草食獣の高密度個体群が維持されるメカニズムを解明するために、爆発的増加と崩壊を繰り返しながらも、慢性的餌不足のなかで高密度が維持されてきた洞爺湖中島のニホンジカ個体群を対象に、長期モニタリング(34年)をもとに、過採食が生活史特性に及ぼす影響について調べた。
3.主要な餌は、初回の爆発的増加期(Phase1:~1984年5月)にはササ、第2回目(Phase2: 1984年6月~2003年5月)にはハイイヌガヤと落葉、第3回目(Phase3:2003年6月~2013年5月)には落葉へと変化した。ササおよびハイイヌガヤの消失した冬季には群れの崩壊が生じた。
4.粗タンパク質含有率(CP)は夏季にはいずれの相とも成長要求量(13~20%)を満たしていたが、冬季にはPhase2と3ではこの水準より低下したものの維持要求量(5~9%)は満たしていた。
5.初回の爆発的増加の課程で、密度依存的な個体群パラメータ(子連れ率の減少、初産年齢の上昇)と表現型形質(成長と体重の減少)の変化が認められた。
6.初回の爆発的増加以降(Phase2-3)、成獣メスの体重は前年冬の密度に依存して大きく年次変動を示したが、妊娠確率50%の閾値である体重40-45kgを上回り、比較的高い妊娠率を維持していた。
7.成獣メスの冬季の体重は幼獣の体重に相関しており、春季の子連れ率は年平均増加率(λ)に相関し、20%以上で増加する(λ>1)など、成獣メスの体重が個体群動態に重要な役割を果たすことが示唆されている。
8.中島個体群は代替の餌資源を開拓する能力および体重と繁殖の生活史特性を調整することによって長期にわたる餌資源制限に耐えることができた。このような表現型可塑性が厳しい餌資源制限下で高密度が維持された主要な要因である。


日本生態学会