大型草食獣（ニホンジカ）の過増加は、食糞性コガネムシ（糞虫）の食物資源を増加させる正の効果と、植生の減少に伴う糞の乾燥化に伴う利用可能量の低下という負の効果を併せ持つ。しかし、ニホンジカの密度の上昇に伴い糞虫の群集構造は変化することが知られる。そこで、ニホンジカの個体群密度の変化が、森林生態系の重要な機能である糞虫による哺乳類の糞の分解にどのように影響するかを実験的に調査した。その結果、ニホンジカの密度が増加すると体サイズの小型種のバイオマスが増加するのに対し、大型種のバイオマスはニホンジカの密度とは関係が認められなかった。さらに、糞の分解速度は、小型種のバイオマスと正の関係が認められ、ニホンジカの密度の増加により糞虫群集の構造が変更するものの、哺乳類の糞の分解機能は確保されることが明らかになった。以上より、糞虫が持つ哺乳類の糞の分解機能は、ニホンジカの密度変化という環境の変化に対して機能的冗長性が高い可能性が考えられる。