群集は、多くの生物種が複雑に絡み合った大規模な複雑システムである。このような複雑なシステムに関する理論を構築し、群集の組成や動態を予測・制御することは、生態学における重要な課題の一つであるが、その複雑さゆえ困難を極める。近年、システムの要素間の複雑なつながり方に注目する複雑ネットワークという研究分野が、数理生物学や統計物理学、社会科学等を横断する研究領域として発展しつつある。システムをネットワークとして眺め、その構造を理解することは、つながり方に関する情報を圧縮し、システムに関する重要な性質を抽出することを可能にする。例えば、種間関係をネットワークとして解析することで、どの種が群集内で重要な役割を果たしているかを明らかにすることが可能になる。本発表では、はじめに、ネットワーク的な見方を紹介し、ネットワーク構造の理解が、生物群集の理解や群集理論の構築にどのような貢献をしてきたかを概観する。それから、群集の安定性や制御可能性についてネットワークの観点からアプローチした研究をもとに、ネットワーク的な視点が今後の群集生態学でどのような役割を果たすのかについて議論したい。