| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S11-4 (Presentation in Symposium)
種間相互作用は関わる生物種の密度に依存し,その効果が大きく変わるという特徴を持つ.この相互作用の密度依存性は個体群動態や種間関係を特徴づけるため個体群生態学の分野で盛んに研究が行われてきた.その一方で,多種共存などの群集レベルの現象との関係を調べた理論研究は以外に少ない.さらに,定量に必要な制御実験を無数の種間関係に対して行うには膨大なコストがかかるため,複雑な自然生態系で相互作用の密度依存性が示すパターンや機能については全く分かっていないのが現状であった.
このような問題意識のもと,講演者は相互作用の密度依存性が生物群集の安定性に与える影響を理論・実証面から検証する一連の研究を行ってきた.具体的にはまず,相互作用の密度依存性が生物群集の複雑性ー安定性関係に与える影響を解析する理論研究を行った.その結果,少数派ほど得をする,または多数派ほど被害を受ける種間関係が卓越する群集では,種数が増えるほどより安定的に存続できることが明らかとなった.
次に,相互作用の密度依存性を時系列データから直接推定する手法,および推定した密度依存性を操作し動態に与える影響を解析する手法の開発を行った.その手法を用いてモデル時系列と相互作用の詳細が既知の実験時系列を解析したところ,強い観測誤差・プロセスノイズの下でもこの手法を用いることで相互作用の密度依存性が推定できることが分かった.そこで,長期存続する魚類群集時系列データから密度依存性を推定したところ,理論研究から期待される密度依存性パターンが確かにこの魚類群集で卓越しており,またそのパターンを破壊すると群集動態が不安定化することが明らかとなった.
これらの結果は,相互作用の密度依存性が持つ群集レベルの機能を明らかにするとともに,その機能が自然生態系の存続や多様性維持に重要な役割を果たしていることをも示唆している.