| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S11-6  (Presentation in Symposium)

群集動態の予測・制御と頑健な生態系の設計
Prediction and management of community dynamics for designing robust ecosystems

*東樹宏和(京都大学)
*Hirokazu TOJU(Kyoto University)

20世紀後半以降の生命科学においては、個々の種のゲノムを解読し、遺伝子や分子のレベルで生命体を制御するアプローチが大黒柱となり、華々しい発展を遂げた。一方で、生物群集・生態系レベルの現象は、少数の遺伝子で思い通りに制御することができない。そのため、予測も制御も難しいシステムとして、生物群集や生態系が位置づけられたままとなっている。

これまでの研究で、数十〜数百種の細菌で構成される群集の動態を長期的にモニタリングする実験システムを構築した。超多検体Illuminaシーケンシング・システムを駆使し、実験で得られた合計10,560サンプル(96 群集 x 110 日間)について、細菌群集の構造を定量的に解明した。生物群集の研究史上類をみないこの巨大データセットをenergy landscape analysis やempirical dynamic modelingといったプラットフォームで解析することにより、群集動態の本質的な構造が浮き彫りになってきた。例えば、細菌の群集構造に、「代替安定状態」(alternative stable states)に相当する、「エネルギーの低い」ものが存在することが判明した。また、そうした代替安定状態の数や代替安定状態間の劇的なシフトを環境条件の設定で操作・制御する技術基盤が見いだされつつある。

生物叢動態の制御が可能となれば、医療(e.g., 腸内細菌叢の制御)、農業(e.g.,植物共生微生物叢の制御)、工学(e.g., 活性汚泥の微生物叢制御)にわたる広範な産業分野において、群集・生態系レベルで生物機能を最適化する新たな科学が生まれる。「遺伝子を構成要素とする個体」の制御が20世紀生物学の成果だとすれば、「種を構成要素とする群集・生態系」の制御こそが、困難だが破壊的な波及効果を生む21世紀科学の挑戦領域である。生物群集の動態を予測・制御する技術とともに、機能性や安定性が最適化・最大化された生態系を設計する新しい研究領域について議論したい。


日本生態学会