| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S16-6 (Presentation in Symposium)
メダカ科魚類は性的二型が顕著な分類群で、オスの二次性徴形質における種間変異も大きく、熱帯に分布する種の一部は温帯種と比べて鮮やかな体色や装飾的に伸長する鰭を持つ。オスは鰭が長いほど配偶のときメスから受け入れられやすいので、性的形質の地理的変異は低緯度で性淘汰圧が強まることを示唆する。しかしながら、緯度に沿って性淘汰圧に勾配をもたらす進化生態プロセスの有無については検討されてない。演者らは、気候適応で進化する繁殖の季節性が性淘汰圧に影響すると考えた。高緯度では温度や日長などの環境が周期変化するので、繁殖や成長を好適な期間に集中する季節性繁殖が進化する。繁殖が時間的に集中すると、繁殖可能な雌雄の出現 (=実効性比) の偏りが弱まるだろう。それによって、高緯度ほど性淘汰圧が弱まると仮説を立てた。メダカの行動実験から実効性比が1:1に近づくと、オス個体間の配偶者獲得数の差がつきにくく性淘汰が弱まることが知られる。演者らは実効性比に関する仮説を検証するため、熱帯のムナ島 Oryzias woworae, 亜熱帯の沖縄 O. latipes および温帯の青森 O. sakaizumii の3種で、繁殖期間を通じて繁殖可能な個体の出現の消長を追跡して野生集団の生活史を比較した。その結果、高緯度の種は個体群レベルでは若魚の加入が短期に集中して、個体レベルでは産卵間隔や一腹あたり産卵数に季節性繁殖の傾向を示した。繁殖可能な雌雄の出現に着目すると、高緯度の種ほど繁殖可能なメスの出現した期間は低緯度の種より短く、繁殖盛期において繁殖可能なメスの割合が高かった。一方で、繁殖可能なメスが出現した期間に限ると成熟オスの割合は集団間で違わなかった。つまり実効性比は低緯度の種はオスに偏り、高緯度の種で偏りが弱まった。以上はメダカ科魚類では気候適応がもたらす生活史の進化が、実効性比の偏りを介して性淘汰圧の違いをもたらすことを示唆する。