| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S18-4 (Presentation in Symposium)
世界規模での生物多様性の損失とそれに伴う人類への様々なリスク増大は、今や科学者コミュニティを超えた喫緊の社会課題となっている。これまで世界中の科学者による研究活動によって、生物多様性の状態とその脅威、具体的な保全策などについて有用な科学的知見が蓄積されてきた。しかしながら、その蓄積された科学的知見が実際の保全につながった事例も確かに存在するものの、保全生物学が確立されて35年以上が経った今でも、未だ世界規模での生物多様性の損失には歯止めがかかっていない。生態学者はこの課題に対して重要な役割を果たすことができると長らく認識されてきたが、我々は科学者として真に生物多様性保全に貢献できるのだろうか?科学的知見が実社会において活用されないという「研究と実践の隔たり(research-implementation gap)」は、生物多様性の保全が思うように進まない主因の一つとされ、欧米を中心として盛んに研究が行われてきた。本発表ではまず、シンポジウムの主題ともなっているこの「研究と実践の隔たり」を生み出す要因と提案されてきた解決案について最新の知見を概観する。一方で、欧米で研究と実践の隔たりについて議論が盛んである背景には、既に十分な科学的知見が蓄積されているという認識が前提として存在している。そこで本発表の後半では、国内で生物多様性保全の意思決定に利用できる知見がどれだけ蓄積・整備されているのか、科学的知見の創出、既存知見の統合、意思決定支援システムの構築という各過程に注目して考察を行う。最後にこれらの現状を踏まえて、日本での科学的研究によって生物多様性保全に貢献するための提案をいくつか行いたい。