| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S18-5 (Presentation in Symposium)
農業生物多様性を維持・発揮するためには,適切な政策的介入により,人々の行動を変容させることが必要である。このため,消費者・農業者のそれぞれが行動を起こすための仕掛けを学術的に検討することが重要であり,そしてこのような仕掛けの検討には社会科学と生態学の学術的連携が不可欠となる。本報告では,このような観点から,今後の政策研究課題として以下5点を提案する。
まず第1に,代表的な農業環境政策上の措置として,農業者の参加が任意となっている「農業環境直接支払い」の再検討である。経済学者によって様々なバリエーションが考えられているが,日本は簡便な「固定額」による「行為に対する支払い」を選択している。ただ,生態学の貢献により,より効率的な政策デザインが可能となる。第2に,農業生物多様性の価値の可視化の推進とステークホルダー間の自発的な連携を促す仕掛けの検討である。生態系や生物多様性の価値を適切に評価するためには,生態学のエビデンスに依拠する経済的評価が有益である。わかりやすい形で可視化を推進することで,投資家や企業にとっての生物多様性の主流化が推進され,また新たなPESが生まれる可能がある。第3に,農業者と消費者の情報の非対称性を解消するための仕掛けの検討である。生物多様性に貢献する農産物であることを明示するためのラベリングがいくつか運用されているが,どの程度ラベリングが効くのか,それによってどの程度購買額が向上するのかについてのエビデンスは十分ではない。ラベリングの効果については,仮想評価法に基づく評価が行われているものの,実際の効果を知るためには対照群と介入群をランダムに分けたフィールド実験が有効である。第5に,消費者への働きかけの面では行動経済学の「限定合理性」の観点が必要である。規制,金銭的インセンティブのほか,新たな政策として「ナッジ」の有効性を検討することも有効である。