| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S18-6 (Presentation in Symposium)
1995年の科学技術基本法制定により科学技術と社会・自然との調和が謳われてから25年が経過した。その間、科学と社会のインターフェイスを強化するための多様な取組が展開されてきた。環境保全や政策形成の現場では、科学が社会に対し一方的に「正しい」知識を伝えるようなやり方の限界が露わになり、双方向の対話や学習の重要性が認識されるようになった。国内では宮内1)が先駆的に提唱した、資源管理手法としての順応的管理から順応的ガバナンスへの移行も、そうした議論の一環として捉えられる。さて、Cashら2)は持続可能な発展に向けて科学・技術を有効活用する要件としてsalience(政策決定者や社会的ニーズへの応答), credibility(科学的見地からの妥当性・信頼性), legitimacyの3点を提示した。前二者は比較的イメージしやすいが、legitimacyはわかりづらく、その実装についての議論も手薄である。Cashらがlegitimacyを「生産された情報や技術が、ステークホルダーの有する多様な価値や信条を尊重しており、偏重しておらず、相対立する見解や利害関係に対し公平であること」と説明している通り(p. 8086)、それは科学が政策プロセスに運び込まれる際の価値基準や規範と密接にかかわる要件である。こうした問題が自然科学系の学会で議論されることは通常少ないが、社会とのインターフェイスの現場に立とうとする科学者であれば、それらとの接触を回避できないであろう。3つの要因は相互に関連しており、相乗作用だけでなくトレードオフをも引き起こしうるからである。本報告は、公共政策学における価値や規範に関する議論を紹介することで、社会との対話に取り組み政策過程に参加しようとする生態学者が、legitimacyを考える際のヒントを提供できればと期待するものである。
1) 宮内泰介(2013)なぜ環境保全はうまくいかないのか.新泉社.
2) Cash, D.W. et al. (2003) Knowledge systems for sustainable development. PNAS 100/14: 8086-91.