| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S20-1 (Presentation in Symposium)
近年、野生植物に感染したウイルスが、季節を越えて長期に植物体内に維持されていることが明らかになってきた。しかし、このような継続感染において、宿主植物の生長とウイルスの増殖がどのように両立しているのかはほとんどわかっていない。植物とウイルスの関係は環境依存的であることから、その関係が季節によって変化することが予想される。そこで私たちは、RNA-Seqを用いることによりRNAウイルスの配列・量と宿主植物のトランスクリプトームとが同時に検出されることに着目し、継続感染下での植物―ウイルスの関係における季節性を包括的に調べることを試みた。
長期感染が成り立っている多年生草本ハクサンハタザオとカブモザイクウイルスを対象に、野外集団の植物組織内のウイルス量を調べた結果、冬に展開する葉で減少する一方、春の繁殖期には植物体全体にウイルスが広がった。また、トランスクリプトームレベルで検出される病徴は秋に限られ、病害の程度は季節によって異なることが明らかとなった。さらに、春先にはウイルスを含む広い病害生物に対する防御であるサリチル酸経路が、秋にはウイルス特異的な防御である RNAサイレンシング経路が主に働いていた。これらの結果から、感染の継続には冬のウイルス増殖の抑制が重要であること、ウイルスに対する防御法が季節依存的に変わることが示唆された。このような防御法の季節的な違いが引き起こされる原因について、複数の防御経路間の拮抗関係や応答速度の違いについて、野外時系列トランスクリプトームデータの解析と室内実験によって検討した。本研究により、野外でのトランスクリプトーム解析は、その網羅性により、複雑な生物間相互作用の季節性研究の強力なツールとなることが示された。