| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S21-2 (Presentation in Symposium)
分子マーカーの普及とともに自然交雑や人為的撹乱による交雑の報告は増加している.また様々な生物群を対象とした系統地理学的研究の発展に伴い、付随的に交雑帯が発見されることも少なくない.DNA解析は,交雑の時期や規模,交雑帯の構造や機能ならびに種分化や種の融合など,多岐にわたる進化生態学的知見を我々に提供している.
交雑帯は,雑種形成の有無に関係なく,また同種・異種にかかわらず,それぞれの個体が少しでも多くの子孫を残すための駆け引きが繰り広げられる場所である.その駆け引きにおいて2種の共通点は交雑の起こりやすさと関係し,一方,相違点は親種の分布拡大や縮小ならびに交雑個体の分散などの生態学的ダイナミクスを左右する要因となりうる.しかし,前者に比べ後者が注目される機会は少ない.
小型コイ科魚類モツゴPseudorasbora parvaとシナイモツゴP. pumilaはフォッサマグナを境に異所的に分布する姉妹種である.近年,西日本在来のモツゴが国内外来種として東日本へと分布を拡大し,一方,東日本在来のシナイモツゴが激減するという種の置き換わりが報告されている.両種は自然環境下において容易に交雑するが,その交雑はシナイモツゴメス×モツゴオスのみでその逆は起こらない非対称性である.またF1雑種は繁殖能力のない不稔である.交配実験の結果,シナイモツゴメスは同種オスを選好するが,モツゴのスニーカーの繁殖干渉により交雑が生じていた.すなわち,非対称な交雑はオスの代替繁殖戦術が種間で異なるために生じていると推測された.またそのことは繁殖開始サイズや精子活性の観察からも支持された.最後に繁殖戦術に種間差をもたらした進化的背景について考察するとともに,国内外来種モツゴの侵略機構としても繁殖戦術が重要な役割を果たしている可能性について言及したい.