| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S21-5  (Presentation in Symposium)

隔離強化で生じるβ多様性とニッチ幅の多様性
Reinforcement of reproductive isolation increases beta-diversity and niche breadth-diversity

*京極大助(龍谷大学)
*Daisuke KYOGOKU(Ryukoku University)

異所的に分化した2種が二次的に接触すると、不適応な交雑や繁殖干渉が起きることがある。こうした種間相互作用が繁殖形質置換を引き起こす可能性は古くから指摘されてきた。しかし交雑や繁殖干渉を避ける適応として種認識形質の分化がよく検討されているいっぽうで、棲み分けが生じる可能性については体系的な検討がなされてきたとは言い難い(棲み分けはむしろ、異なる環境への適応とセットで生殖隔離をもたらす可能性が生態的種分化の文脈で検討されてきた)。棲み分けは生殖隔離をもたらすのみならず、局所スケールで生じる資源競争の強さを変化させることで、近縁種の地域的な共存を促進すると考えられる。実際、生態的に等しい2種の間での交雑を想定したシミュレーションモデルでは、種認識の進化よりも棲み分けのほうが生じやすいという予測が得られた。これは主に棲み分けが2種の共存を促進するためである。また、個体レベルではたらく資源競争が種間よりも種内でより強い場合には、2種のうち一方が様々なハビタットを利用するジェネラリストに、もう一方がひとつのハビタットのみを利用するスペシャリストに進化する場合があることが予測された。したがって、密度制御の機構に応じて交雑が多様なハビタット利用を進化させる可能性がある。こうした結果は生理的な適応(基本ニッチ)の変化ではなく、分散行動(実現ニッチ)の変化によるものであることに注意されたい。これらの結果は資源量と交雑リスクの動態が相互作用することで生じる。またこれらの結果は交雑が他の要因と協働することでβ多様性(棲み分け)やニッチ幅の多様性が生じる可能性を示唆する。


日本生態学会