| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S25-1  (Presentation in Symposium)

過去の植生の読み解きと里山草地の保全
Historucal reading the past vegitation and grassland consenvation in Satoyama

*楠本良延(西日本農研センター)
*Yoshinobu KUSUMOTO(WARC/NARO)

農業生態系に成立する生物多様性に注目が集まっている。そのなかでも、わが国において絶滅の危惧に瀕している生物の中には、里山草地に代表される草原性、または草原性依存の生物が多く含まれる。農村景観に広く分布していた湿性草地や半自然草地は、都市化や農業形態の変化に伴い、分布面積の減少、種組成の劣化、外来種の侵入などの影響で急激な衰退が懸念されている。そのような里山草地の保全を実施していく上でベースラインの議論は欠かせない。
しかし、農業生態系は、ことのほかベースラインの設定が難しい。まず、農業生態系の生物多様性は農業生産が導入される以前の立地特性の影響を受ける。湿性草地の代替生育地として機能する水田を例にすると、谷津地形型、後背湿地型、地滑り地形型等は最終氷期以降の万年スケールの歴史性を有する。一方、扇状地型、埋立地型などの現代の農業土木技術で成立した水田は長くて数十年の時間スケールであり、同じ農業生態系として整理するには無理がある。さらに、長い歴史性を有する水田については、稲作の伝来から数千年の人間活動等の影響も受け、重層的にして複雑な成立要因を内包している。
そのような農業生態系では、特に戦後の近代農業の影響は大きいと考えられる。本シンポジウムでは、水田については、除草剤・殺虫剤が広く利用される以前の植生データと、近年の植生データの比較により、水田内の植物相のベースラインについて、参加者と議論したい。また、ススキ草地などに代表される半自然草地のベースラインについては、その成立に関する歴史性の解析からどのような保全策が有効であるかを検討した研究を紹介する。自然生態系や人間活動の歴史性を反映した里山草地の生物多様性は、一度失われると再生は困難で不可逆であることが多い。残存する良好な里山草地を効率的に見つけ出し、保全、または回復する手法についても議論する予定である。


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