| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S25-3  (Presentation in Symposium)

鳥獣罠センサー設置エリアからみた里地里山ベースラインの探索
Searching for a baseline of the agricultural land fields in  which setting area to the  harmful animal trap sensor

*渡邉修(信州大・院・農)
*Osamu WATANABE(Shinshu Univ. Agronomy)

日本の里地里山では高齢化による農業従事者の減少に加え、ニホンジカ等の農林業への被害が深刻化しているため、里地里山保全を進めるため鳥獣対策は不可欠である。鳥獣被害軽減のため、2018年度から省電力長距離通信を行うLPWA(920MHz帯)対応の罠センサーを開発し、山地帯での通信実証試験を行ってきた。調査地は長野県伊那市の約200平方キロである。対象地域は標高590mから2600mの範囲で、隣接する南アルプスにはニホンジカが推定3.4万頭生息し、被害が多発している。地元猟友会の捕獲は標高600mから1100mで実施し、さらに上部の山地帯にシカが多数存在するが、アプローチが悪く林道も整備されていないため、標高1100m以上ではあまり実施されない。冬季は銃による狩猟を行うため、罠の設置期間は秋から初冬である(有害駆除を除く)。地元猟友会の協力で笠松式わな(直径12cm)をどこに設置するか、罠センサーの通信実証試験と同時に現地検討を行った。この結果、農地の畦畔に罠を設置することはなく、農地に隣接するアカマツ・ヒノキの植林地に設置するケースが多かった。これはシカが安易に農地付近まで近寄ることを防止するとともに、シカが冬季の落葉広葉樹林やカラマツ林で視認される可能性が高いため、常緑針葉樹林帯で慎重に行動する習性を反映している。ベテラン狩猟者は広大な山林に直径12cmの罠をピンポイントで設置し、それを踏み抜かせる技術を持っており、熟練者の持つ技術は里地里山管理に向けたベースライン構成要素の一つである。鳥獣被害は今に始まった問題ではなく、伊那市諏訪形では江戸時代(元禄以前)に構築された猪垣が良好に保存されている。猪垣の多くは失われているが、ここでは農地と植林地に隣接するラインに猪垣が土塁のように構築されており、農地に侵入する手前で対策を講じる必要性を示している。


日本生態学会