| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S26-5  (Presentation in Symposium)

環境DNAを利用した長期生態系観測網構想:高度生態情報社会への展望
The eDNA Monitoring Network Plan: a Foundation for Advanced Eco-Information Society

*近藤倫生(東北大学)
*Kondoh MICHIO(Tohoku Univ.)

近年、環境中に存在する生物由来のDNA(環境DNA)を利用した生物調査技術が飛躍的に発展した。環境DNA調査は、非破壊性・簡便性・広分類群網羅性など、生態系調査上の好ましい特徴を備えている。なかでも、現場における労力や時間的コストを大きく削減できる省力性は特に注目すべき特徴である。
環境DNA調査の省力性を最大限に利用した発展方向の一つは、多地点高頻度で実施される高度生態系観測の実現である。生態系は多要素が状況依存的に相互作用する巨大な複雑系であり、予測や制御といった「高い目標」を実現するには、これらの目的に合致した高精度のモデリングが必要となる。高度生態系観測が環境DNA観測網によって実現されれば、それを可能にする十分な観測データの提供を可能にするかもしれない。
生物量の定量推定は多地点環境DNA観測が可能にする技術の一つである。Fukaya et al. (2018)では、舞鶴湾を舞台に実施されたマアジをターゲットとする多地点環境DNA調査、水槽実験による環境DNA動態データ、気象データに基づく物理モデルを統計モデリングによって統合することで、舞鶴湾におけるマアジ量の推定を成功させた。また最近の研究から、生物量の時系列データを利用することで、生物量の短期予測や状態把握が実現可能であることがわかってきた。さらに、多種を対象としたの生態系観測データを利用すれば、その変動を逐次解析することにより、生態系に生じた「異常」を捉えることもできるだろう。
環境DNAのみならず、音響観測・人工衛星観測等の新しい生態系観測技術が発展し、高度生態系観測データの獲得が軌道にのれば、大規模生態系データ解析技術の発展も相待って、生態系の変動予測や制御といったこれまで決して容易ではなかった具体的課題解決への道が拓けるかもしれない。そして、そのような生態学における応用分野の発展は、基礎分野や生態系観測の重要性をアピールする上での重要な武器になるに違いない。


日本生態学会